本来、「衣・食・住」の「衣」は暑さ寒さなどの気候に合わせて衣服を身につけること、「食」は生命を維持するために必要な栄養を摂ること、「住」は雨風をしのぐための生活場所、ということになるのでしょうが、現代に生きる私たちにとっての「衣・食・住」環境とはかけ離れていますよね。それは、私たち人間が高い頭脳と知力を持ち創造することができる生き物だからです。
「衣」については、綿などの天然植物から糸を作り、それを織り布にして縫うことで衣服にしたのですね。また、足の裏を保護するために靴をはき、日差しや危険な物から頭を守るために帽子をかぶり、雨にぬれないために傘を作ったのです。「食」は、自然に生えている植物や木の実を食べ、種を蒔いて野菜や稲を栽培し、猟をして獣の肉を食べ、魚を釣って食べることを覚えました。さらに獲ったものを煮たり焼いたり、食べやすいように味をつけて調理するようになったのです。また、「住」は、雨風、寒さ、暑さをしのぐために、木や土、藁などの自然の材料で囲って住まいとし、テーブルや椅子などの家具を作り、夜の暗い時には明りを灯し、家を建てる技術を覚え、快適な居住環境を整えてきたのです。
このように、先人たちはさまざまな「着る文化」「食べる文化」「住まう文化」を生み出し、長い長い年月をかけて、より優れたものへと進化させ、受け継ぎ、育んできたのです。まさに、人間のみが成し得たライフスタイルなのですね。
日本の衣服の原点は着物(和服)ですが、残念ながら今では日常生活の中ではほとんど着るシーンがなくなってしまいましたね。しいて着る機会といえば、結婚式の花嫁衣装、白無垢、葬儀の時の喪服といった冠婚葬祭の時、あるいは、子どもが誕生したら、お宮参り、七五三、成人式の振袖など、お祝いの行事の時ぐらいではないでしょうか。
もちろん、京都に行けば舞妓さんに出会うこともありますし、お祭りや花火大会で浴衣姿を見かけることもあります。また、職業柄着物を着る歌舞伎や能、雅楽などの伝統芸能の世界もあります。そう言えば、お相撲さんも落語家さんも着物を着ていますね。しかし、一般人で普段から着物姿という方はほとんどいませんね。日本人としては少し寂しい気もしますが、機能性、特に洗濯や着脱の手軽さ、穂損や収納場所などを考えたら、洋服の文化が発展したのもうなずけます。
今や日本の民族衣装のような存在になりつつある着物ですが、子どもの成長を祝う行事の中に、子どもが着物に袖を通す機会が残っているのは幸いなことです。
そこで、ぜひ着物を着せてほしい「子どものお祝いごと」についてちょっとふれておきますね。
一般的には男の子は生後31日目、女の子は生後32日目に、その土地の氏神様(産土神)にお参りします。赤ちゃんを連れて氏神様と対面し氏子として認めてもらうため、また子どもが元気に健やかに成長することを願ってのお参りで、江戸時代には一般的になったと言われています。男の子はのし目模様の着物、女の子は友禅模様の着物が正式な衣装なのだそうです。
本来の七五三の形は、髪置き、袴着、紐落し、帯解きと呼ばれるもので、地域によりさまざまな形で行われていたようです。髪置きは2~3歳に、それまで剃って短かった髪を伸ばし始める儀式、袴儀は3~7歳の子どもが初めて袴をつける儀式です。最近のことでは、秋篠宮さまの御子息悠仁さまが「着袴の儀」をなさったことが報じられましたね。紐落し、帯解きは5~9歳に、それまで着物を留めるのに使っていた紐を帯に帰る儀式です。元々は宮中の儀式ですが、江戸時代に武家や豪商の間で流行し、明治時代以降に庶民に普及したそうです。
成人を祝う儀式は古くからあり、男子には元服・褌祝、女子には裳着・結髪などが行われていたそうです。現在のような地方自治体単位で行われる形の成人式になったのは比較的最近のことで、終戦間もない1946年のことなのですね。 ここにあげた行事以外にも、お子さんに着物を着せてあげる機会はたくさんありますね。地域や、幼稚園のお祭り、お正月、お稽古ごととしての日本舞踊や茶道、あるいは、剣道や合気道などの武道でも着物に触れることはできますね。 ともすると忘れがちな、しかし、脈々と受け継がれてきた着物文化です。お子さんの成長を願いつつ、着物を着せることの意義を感じてほしいと思います。
「衣をまとう」のは人間としては当たり前の行動ですね。
世界レベルで見れば衣服を身につけていない原住民(部族)もいますが、少なくとも日本では、はだかで外を歩いていたら法で罰せられてしまいます。
日本にも洋服の文化が普及し、あらゆるファッションが巷にあふれている今、私たちは必要なアイテム、好みのデザインやブランドで洋服を選んで買うことができます。
でも、いつ、どこでも、どのような洋服を着ても自由だとは思っていませんね。
TPOを考えて着る洋服を選んでいるでしょう。
まさしく、「洋服を着ること」にもルールがあるからです。
ルールのある衣服としてまず思いあたるのは「制服」です。
日本での制服の始まりは諸説あるようですが、「社会的や立場を表す」ためのものとしては、皆さんご存知の聖徳太子の冠位十二階制度です。
その人の位によって冠や服の色を分け、ひと目でわかるようにしたのです。あらためて聖徳太子の頭脳明晰さに感服しませんか。近代以降の制服文化の始まりは軍服で、イギリスやドイツの軍服をお手本にしたそうです。
制服の主な役割は、その人の職務や、通っている学校がひと目でわかることなのです。
制服を着ている職業で子どもたちが真っ先に思い浮かぶのは、警察官、消防士さんではないでしょうか。
また、ユニフォームも制服の一種と考えるならば、サッカーのJリーグの選手やプロ野球選手も制服がある職に就いていると言えますね。
子育てママ世代にとって学校の制服として身近な存在は「幼稚園の制服」ではないでしょうか?地域によってさまざまですが、一昔前は幼稚園、保育園ではスモック(遊びや作業をするためのかぶりのもの)を家から着て通っていたのですが、昨今、ほとんどの幼稚園には制服がありますね。そして、幼稚園に着いたら体操着やスモックに着替えるというのが一般的になっています。子どもの成長が早いこの時期に制服があることは、途中で買い替えなくてはいけないから経済的な負担が大きいと考えるご家庭も多いと思います。また、制服にはブラウスやシャツ、ブレザーがあるものが多く、「ボタンがあるから着替えさせるのが大変!」と思っていませんか。
でも、よくよく考えたら制服があることのメリットもありますよね。
毎朝イライラしながらも、「早く制服に着替えて!」と子どもに声をかけていますよね。幼稚園では先生が体操服に着替えることを教えているでしょう。なかなか自分で着替えができなくてお母さんの手を煩わせていた子どもが、いつの間にか自分でボタンを留めたり、脱いだ洋服をたたんだりできるようになっていませんか。
「衣育」とは、実は、日常の子育てでやっていることの中にもあるのです。でも、教えてもらって気づくこともたくさんあります。
この『衣育』講座が、ご自身の子育てを見直すきっかけになればうれしく思います。
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