第二回は、埼玉県さいたま市で、子ども絵画教室『アトリエえるぶ』を主宰されている田中経子先生に、幼児期の習い事としての「絵画教室」について、お話を伺いました!
「幼稚園のお絵かきタイムだけでは飽きたらず、いつでもどこでもスケッチブックに落書きしている」、「段ボールをみつけてはなにやら一心不乱に制作している」などなど、何だかうちの子、芸術家じゃない?!なんて密かに思っているママパパ、必見ですよ!
(2007年6月18日 取材・青木 綾/文中敬称略)
―― 発表展(第13回アトリエえるぶ発表展・6月8日~10日開催 埼玉会館第一展示室)、お疲れ様でした。
田中先生
ありがとうございます。お陰様で、発表展も成功し、アトリエえるぶも14年目に入りました。今年は、みんなで作る共同制作として、折り紙を用いた、モザイク画を作りました。これは、墨田区が毎年、平和への祈りをこめて制作している、折り鶴を使ったモザイク画にヒントを得たのですが、入学前の小さな子も、鶴の代わりに「セミ」を折って参加しました。
実はこのような「平和」への思いは、私が子ども達に伝えたいことの一つの柱になっています。何年か前の発表展に来てくださった年配の女性が、教室の子ども達の自由でのびのびとした絵をご覧になりながら、「自由に絵が描けるっていいわね」とおっしゃったことがありました。戦時中は子ども達さえ、好きな絵を描くことはできなかったそうです。戦争と平和、命の大切さなどについて、子ども達が理解する機会の少ない昨今、私は、絵を描くことを通じて、こうした大切なことを自然に伝えていけたらと思っています。
13回発表展・共同制作のモザイク画。
大きな木に生命のエネルギーがみなぎっています。
―― 先ほど、発表展の作品を見せていただきましたが、どれも本当にのびのびとして、子ども達の明るい声が聞こえてきそうなものばかりでしたね。
田中先生
そうですね。ここに通っている子は皆、本当に絵を描くことを楽しんでいます。でも皆が皆、初めから絵を描いたり、物を作ったりするのが大好きで入ってきたわけではありません。中には、「自分は絵が下手なんだ!」と思いこみ、なかなか積極的に描かない子もいます。他のお稽古と違って、絵の表現は、子どもの気持ちが絵に向かない限り、無理強いしても仕方ありません。「描きたくない」子に、無理に描かせる必要はないのですが、「自分は描けない」という思いこみの壁を壊してあげたいですね。それができた子はもう自分でどんどん表現していきますよ。それが子どものエネルギーです。
そもそも、子どもの絵や造作に点数を付けたり、優劣を競うこと自体、意味がないと私は考えています。子どもの目でよく見て、心で受け止め、感じ、それを表現した作品は、一つの型に留まらず多種多様で、どれもそれぞれ、素晴らしいのです。一人一人が楽しんで、自分の表現ができればOK!そしてそれが最高!そういう気持ちで毎日指導しています。
ある日の作品。うちわにぴったりの絵をイメージすることができるかな?
―― 3歳から6歳くらいの幼児が、習い事として、絵画教室に通うことについて、どうお考えですか?
田中先生
最近の子はイメージ力が低くなっているように思います。考えることを面倒くさがったり、言われたことはちゃんとやるけど、自分から「どうするか」動けない、指示待ちの子が多いような気がします。もっと好奇心をもって、自分で考えて、行動できる子になってほしいんです。そのためには、自己表現は大切です。小さい時からいろんなものを見て、考えて、感じられる力を育てたいですね。描きたくて仕方のない子、絵を描くのが好きでたまらない子がいます。そんな子は是非、その描きたい気持ちをどんどん伸ばしてあげてください。
小さくても子どもは自尊心がちゃんとあります。自分の表現に自信がもてて楽しく絵が描けたら、それは大きな生きるエネルギーになるんじゃないでしょうか。アトリエえるぶでは、幼児に対して、細かい技術指導はしません。自分を出せるかどうかが大切です。自分の思いを伝えることはとても重要です。そして「見る力」を育てること。ものを見るということは、そのものに心を寄せなければなりません。心を寄せるということは、自分の心を開き、ものをあるがままに受け止めることであり、やさしさや思いやりにもつながります。
心をこめて「見る」ことによって、驚きや感動があり、小さな感性が磨かれ、またたくさんのものを「見る」という経験の中で、豊かなイメージ力が身に付いていきます。そうした表現の元になる「見る力」を育てることが、私の指導の上での大きな目標です。人間らしく生きるエネルギー、人間力とも言える力を得るためにも、入学前の小さな子も、もっと身近に絵を描くことを楽しんでほしいな、と思いますね。
年長の子の描いた馬。額に入れて飾れば、有名な画家の絵のようです。
田中先生
教室では、こちらからテーマを与えますが、前にも言ったとおり、子どもがそのものに興味がなければ無理強いしません。その子の描きたいこと、やりたいことがあれば、それを優先したいですね。ここでは、家庭と違って、「部屋が汚れる」「道具がない」などの制限はありません。子どもはいつも自由な発想で、自由に表現することができます。
幼児期に、よく「見」、心で「感じて」、自由に「表現する」、そして、それが、周りの大人に認められる、という体験は、その子の心を豊かにしてくれることでしょう。豊かな子ども時代を過ごすことは、その先ずっと、その子の生きるエネルギーになると私は考えています。他の習い事に比べ、二の次、三の次にされがちな絵画教室ですが(笑)、心の成長には良いことがいっぱい!是非、気軽にご参加ください。
様々な素材が、子どもの心を刺激します。
―― 最後に、幼稚園児のパパママに向けてのメッセージをお願いします。
田中先生
子育て中は大変忙しく、なかなか難しいことかもしれませんが、まずは「子どもとゆっくり話すこと」をお願いしたいと思います。子ども達は、おしゃべりが大好き。おもしろかったこと、発見したこと、楽しかったこと、色々な体験を話すことは、単にコミュニケーションの手段としてだけではなく、子ども達の頭の中のイメージをふくらませたり、考えを整理する大切な過程です。子ども達の話にゆったりと耳を傾け、受け止めてあげてほしいですね。
また、子ども達が描いた絵、作った作品には、先に申し上げたように、一つ一つ、素晴らしい表現があります。その子の中からでてきた表現に、大人の見方や考え方を押しつけてはいけません。子どもの絵は技術などではなく、「心の表現」として受け止め、認め、ほめてあげてほしいのです。たくさんおしゃべりをし豊かになった心で、絵を描き、物を作り、またそれを大人が認め、育てていく。そのような心豊かな子ども時代を過ごし、芸術の世界への小さな一歩を踏み出してもらえたら、と願っています。
「先生こんにちわ!」週に一度の大好きな絵の時間にニッコニコです。 | 今日のクロッキーの題材は「びわの実」。よく見て感じて描いています。 | 「クロッキーできたよ!」先生の話にふむふむ・・・ | 今日のお絵かきの素材は旬の「あさり」うまく描けるかな? |
自分でスケッチブックをだして、「よ~し頑張るぞ! | あさりの模様だよ。よく見て描いているね。 | ちょっと休憩中 | 色もつけたし、なかなかいい仕上がりだ!大満足♪ |
「よく見て描けたね~」先生に褒められてまた嬉しい♪ | 自分できちんと後片づけ。「先生、さようなら」また来週~! |
発表展が終わったばかりのお忙しい時間をさき、子どもの絵画に関する、色々な話をしてくださった田中先生。取材を離れた私の話にも必ず耳を傾け、優しく答えてくださる先生との時間で、大人の私も、とてもゆったりとした、豊かな気持ちになりました。
教室の机には、色鮮やかなあじさいの花が挿してあり、教室に来た子ども達を迎えています。あじさいを心の目で見て、描いて表現しながら、そんな風に季節の移り変わりを感じることのできる子どもたち。そして、その絵を優しく見つめ、認めてくれる先生。そこにはまさに「心豊かな」時間が流れています。田中先生、そして、授業の取材に協力してくれたかわいい女の子たち、本当にありがとうございました。二人の笑顔の輝き!充実した時間を何より如実に物語っています。
「できるようになる」ことばかりにとらわれがちな、子どもの習い事。目に見えて何かができるようになるのではなく、心を豊かに、いつか子どもの才能が花開くその日まで、じっくりゆっくり見つめて育てる時間も大事にしたいものですね。
第2回―おわり
1978年、日大芸術学部美術学科(油絵)卒業。
浦和・草加市内の小中学校で美術・図工科講師を経験。
その後、広告代理店(制作部デザイナー)を経て、絵画教室 アトリエえるぶ主宰。
(株)メディア・ポート専務取締役、アートディレクター。
アトリエえるぶ(http://blog.goo.ne.jp/mediaport_2008)
埼玉県さいたま市浦和区常盤 9-34-12 松村第一ビル2F
最寄り駅:JR京浜東北線「北浦和駅」より徒歩5分